ＭＲ２詳細(後)

　ＭＲ２の最大の美点は、暴力的な加速力ではなく、クネクネ道(例えば私の好きなＲ１８碓井峠旧道等)を登ると、自分を中心に旋回し、しかもアクセルワークで姿勢を変えられるので、何か自分の腕が上がった様な幸福な錯覚に包まれる事だと思います。この幸福感を得る為に、背中の辺りに重いエンジンを置いているのですから。ただしこれは諸刃の剣で、逆にクネクネ道を下る時は、旋回中にラフなブレーキングやハンドリングをすると、まるでスピンするかのような、怖い挙動を示します。
　今度の愛車は凄い力持ちで、追い越し加速中に三速で不用意にアクセルを床までで踏んだら、ホイールスピンを起こし、お尻をブリブリと振った「じゃじゃ馬」でもありました。
　高価なオプションである「スポーツＡＢＳ」に一度命を助けられた事があります。丹沢の辺りで結構ハイペースで流していた時、対向車線の停止車両の陰から小さな女の子に飛び出されました。「轢いた！」というタイミングでしたが、凄く短い距離で横に流れもしないでピタリと止まりました。ブレーキ音で初めてこっちを見てくれた女の子の笑顔を今も忘れる事が出来ません。子供は轢きたくないですよね。あの子の両親達に「うちの娘は　野火止の次郎という人に殺された…」とずっと思われ続ける訳ですから、長生き出来る訳が有りません。あの時は私の方が「助かった」と思いました。フルブレーキング中の右足の裏にコツコツという独特の反動が有ったので、ＡＢＳのお陰に間違い有りません。前車だったら…、ヤバかった。
　丸１年が過ぎた夏、ＭＲ２運転で最大の失敗をやらかしてしまう。草津から白根を通り渋峠へ抜けるスカイラインをドライブしていた。その日は夏としては５年に１回の好天で、北アルプスの残雪まで見えた。よせばいいのに、ふと昔走った林道に行きたくなって、脇道に入り込んだ。ゆっくり走ればコイツでも何とか成るもんだ…と、小さな峠で絶景を眺め、更に林道を下った。ダート区間を走っていた時、異音と振動が発生。愛車を止めて外に出た。リヤタイヤの空気が抜けていた。パンクと早合点して充填剤を注入したが、バッサリと切れている場所を白い液体が教えてくれただけ。ここまでは林道経験豊富で何回も経験済。この日の失敗は、ココは狭いからと空気が抜けたまま走り始めた事。こんな時に限って広い場所は現れない。結構走って条件のいい所にＭＲ２を止めた。ホイールナットを緩める時に、その異常に気が付いた。熱くてタイヤに触れないのだ。軍手越しにも熱さが伝わってくる。時間を掛けて、非常用タイヤと交換し、切れたリアタイヤをフロントボンネットの中に押し込んだ。下るに従って道は広くなり、やがて舗装路に、そして集落に出た。左右のリアタイヤの幅が大差なので曲がる度にデフが鳴いた。このままでは高速はおろか、一般道の速度も出せないと落ち込んでいたら、この集落に奇跡的にタイヤ屋があった。生還である。ボンネットから切れたタイヤを出す時、まだ熱くて軍手が必要だった事を覚えている。その日は「ロープロタイヤには林道は無理だ」と反省していたが、交換しないであれ以上走っていたらタイヤが自然発火して、愛車ごと私が丸焼けになっていたかもしれない…と、後になって本当の怖さが判ったという失敗談。
　忘れもしない1997.7.18 7:44頃、恒例東北ドライブ中にその事件は起きた。常磐道をハイペースで走行中に突然「グォー」という轟音が発生した。この時、私は恐怖で運転席でパニックに陥りかけた。しかし冷静に状況を考えると振動も速度低下も無かった。徐々に速度を落としながら２車線レーンチェンジして左に寄せて、何処か止まれる場所は？と前を探していたら幸い守谷ＳＡが有り、其処に逃げ込んだ。外に出てＭＲ２を点検すると、左前フェンダー内の薄いビニールの様なカバーが外れかけていて、タイヤと摺れた跡もあった。ＳＡのガソリンスタンドへ愛車を連れて行き、「これ修理出来ますか？」と恐る恐る訊いた。ＧＳの店員さん、この種の修理に慣れているのか、鋏を持って来てブラブラのカバーをチョキチョキと切った。
「これで走れます。フェンダーの中が汚れますから早めに修理してください。」と素早い対応。料金ゼロ。さっきの私のパニックは何だったんだ？と、私は唖然。幸い大した故障でなかったので、恒例のドライブ旅行は直ぐに再開出来た。が…、私の怒りは収まらなかった。今まで、私の運転で愛車を修理する時は必ず、自分に何らかの原因があった。しかし、今回は100%トヨタの設計ミスだと思った。前２車は、こんな所にはカバーなんて付いて居なかった。フェンダーの中に泥とか小石が入るのは、当たり前の事なのだ。しかも、外れても危険が無いようにペラペラの材質にしてある。三百万円もする車なので、余計腹が立った。

　その後３ヶ月　ＭＲ２には乗り続けたが、この恐怖事件で一度揺らいだクルマへの愛情は、ついに元に戻る事は無かった。高額値引きに釣られてスタートしたものの、高価なクルマに２年半しか乗らなかったので｢スポーツカーに乗っていたという華麗な過去｣は酷く高いものに成ってしまった。